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はじめに:専従者給与とは?
専従者給与とは、個人事業主が家族や親族などの生計を一にする人に対して、事業に従事してもらう見返りに支払う給与を指します。専従者給与を適切に支給することで、事業所得からその給与分を経費として計上でき、節税効果が期待されます。しかし、専従者給与の適用にはいくつかの要件があり、それらを満たしていないと税務署に認められないことがあります。
この記事では、専従者給与の要件や適用条件、手続き方法、そして注意点について詳しく解説していきます。
専従者給与のメリット
まず、専従者給与を支給するメリットを簡単にまとめておきましょう。
- 節税効果:専従者給与を経費として計上することで、事業所得を圧縮し、結果として所得税や住民税を減らせます。
- 家族の生活支援:事業に貢献している家族に対して正式な給与を支給できるため、家族の生活支援にもなります。
- 所得の分散:収入が個人事業主1人に集中するのを避け、所得を家族に分散することで、高い税率の負担を軽減できる場合があります。
専従者給与の適用要件
専従者給与を経費として計上するには、税法上の特定要件を満たす必要があります。これらの要件を満たしていないと、専従者給与が経費として認められず、節税効果が得られないことがあります。
1. 青色専従者給与と白色専従者控除の違い
まず、専従者給与には「青色専従者給与」と「白色専従者控除」の2種類があることを知っておきましょう。これらは申告方法に応じて異なります。
- 青色専従者給与:青色申告を行っている個人事業主が利用できる制度です。給与の額を事前に届け出る必要があり、その額に基づいて経費として認められる給与を支給します。
- 白色専従者控除:白色申告を行っている個人事業主が利用する制度です。白色申告の場合は、配偶者には年間86万円、それ以外の親族には50万円を上限に経費として控除できます。
2. 親族の範囲と生計要件
専従者給与を支給する対象者には、親族の範囲と生計を共にするという条件があります。
- 親族の範囲:配偶者、子供、両親、兄弟姉妹、その他の親族が対象になります。
- 生計を一にしていること:専従者となる親族と同じ生活費を分担し、同じ家計を営んでいることが求められます。
3. 一定の従事要件
専従者給与の支給対象となる親族が、その事業に一定時間従事していることが求められます。具体的には、以下の条件を満たす必要があります。
- 6カ月以上従事している:1年間のうち6カ月以上、専らその事業に従事していることが求められます。短期間の手伝いでは適用されません。
- 勤務実態があること:実際に業務に従事している証拠が求められます。例えば、事業での役割や労働時間、仕事の内容などが明確にわかるようにしておくとよいでしょう。
4. 適切な給与額の設定
専従者給与は、過剰な金額で支給することは認められません。市場相場や一般的な給与水準を参考にし、適切な範囲内で給与額を設定する必要があります。例えば、通常の従業員が受け取る額を大幅に超える給与は認められないことがあるため注意が必要です。
5. 届出義務
青色専従者給与を適用する場合、税務署への届出が必要です。具体的には、専従者給与の額を決定し、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出します。この届出がない場合、専従者給与は経費として認められません。
青色専従者給与の手続き方法
ここでは、青色専従者給与を適用するための手続き方法について詳しく見ていきましょう。
1. 青色申告の承認申請書を提出
青色専従者給与を利用するには、まず青色申告の承認申請書を税務署に提出して青色申告の承認を受ける必要があります。この承認申請書は、原則として新たに開業した事業年度の開始から2カ月以内、または既存の事業の場合はその年の3月15日までに提出します。
2. 青色事業専従者給与に関する届出書を提出
青色専従者給与を利用する場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出します。この届出書には、専従者の氏名、給与額、支給方法などを記載し、事業年度の初日から2カ月以内に税務署に提出する必要があります。この届出を提出しなかった場合、その年の専従者給与は経費として認められません。
3. 給与支払の証拠書類を準備する
専従者給与を支給する際には、給与支払の記録をしっかりと残しておくことが求められます。具体的には、給与明細書や振込明細、給与台帳などの書類を準備し、給与が実際に支払われている証拠を確保しておきましょう。こうした書類は、税務調査の際に必要になることがあります。
4. 適切な帳簿記録
青色申告を行う際には、専従者給与の支払いや勤務内容に関する帳簿をしっかりと記録する必要があります。事業所得や専従者給与に関する帳簿は、少なくとも5年間の保存が義務付けられているため、適切に保管しましょう。
白色専従者控除の要件と手続き
白色申告を行う場合、青色申告と異なり、事前の届出は不要で比較的簡単に控除を受けることが可能です。ただし、専従者に支給できる金額には上限が設けられています。この控除額は、配偶者とそれ以外の親族で異なるため、詳しく確認しておきましょう。
1. 白色専従者控除額の上限
白色申告の場合の専従者控除額は、以下のように定められています:
- 配偶者の場合:年間86万円まで
- 配偶者以外の親族の場合:年間50万円まで
このように、白色専従者控除では上限額が決められており、それを超える金額は経費として認められません。
2. 生計を一にする親族であること
白色専従者控除を適用する場合も、生計を一にする親族である必要があります。専従者として控除を受ける親族が一緒に生活し、同一の家計で生計を共にしていることが条件です。
3. 一定の従事要件
青色専従者給与と同様に、白色専従者控除でも専従者がその事業に6カ月以上従事していることが条件です。短期間の手伝いやアルバイト的な関わりでは専従者控除は認められないため、業務にどの程度関与しているかが重要なポイントとなります。
専従者給与を支給する際の注意点
専従者給与の制度を適用するにあたっては、いくつかの注意点があります。適切に支給していない場合や条件を満たしていない場合、税務調査で指摘され、専従者給与としての認定が受けられないことがあります。
1. 事実に基づく給与額の設定
専従者給与を支給する際には、業務に応じた適正な金額を設定することが重要です。家族であっても、過大な給与額は経費として認められない場合があります。通常の従業員の給与水準や業務内容を考慮し、正当な額を支払うようにしましょう。
2. 実際の勤務実態の確認
専従者給与を経費にするためには、実際に業務を行っている証拠をしっかりと記録することが必要です。例えば、勤務スケジュールや仕事内容、業務日報などを用意しておくと、勤務実態を証明することができます。特に税務調査の際には、これらの記録が重要になります。
3. 書類の整備と保存
給与支払の証拠書類として、給与明細書や給与台帳、銀行振込の明細などは必ず準備し、適切に保存しておきましょう。こうした書類は、税務調査が入った場合に確認されることがあるため、整備しておくことが大切です。また、給与の支払いを現金で行っている場合は、必ず領収書を発行し、給与支給の証拠を残しておきましょう。
4. 所得の適切な分配
専従者給与の適用により、所得を家族に分散することが可能ですが、過剰な分配は避ける必要があります。過度な所得分散は、税務上不自然と判断されることがあり、否認される可能性もあるため、適正な範囲内での分配を心がけましょう。
専従者給与と節税効果
専従者給与を利用することで得られる節税効果は大きなメリットです。専従者給与を経費として計上することで、個人事業主の所得を圧縮し、所得税や住民税を軽減することができます。ここでは、具体的に専従者給与がどのように節税効果をもたらすのかを見ていきましょう。
1. 所得の分散による節税
専従者給与を家族に支給することで、所得を分散させることが可能です。所得税は累進課税であり、所得が増えるほど高い税率が適用されますが、家族に適正な範囲で給与を分散することで、個人事業主の税率を抑え、全体の税負担を軽減することができます。
2. 経費としての計上
専従者給与を経費として計上することで、個人事業主の事業所得が減少し、その分だけ課税所得も減少します。たとえば、年間で100万円の専従者給与を支給した場合、個人事業主の課税所得は100万円減少し、その分の税金を節約することができます。
専従者給与のよくある疑問
ここでは、専従者給与に関するよくある質問や疑問点について回答していきます。
Q1. 専従者給与を支給できる人数に制限はありますか?
専従者給与を支給できる人数に法的な制限はありません。しかし、あくまで業務に従事している親族に対してのみ支給でき、過剰に人数を増やした場合、税務調査で疑念を持たれる可能性があるため、適正な範囲内で設定することが重要です。
Q2. 専従者が途中で働けなくなった場合、どうすれば良いですか?
専従者が病気や怪我で事業に従事できなくなった場合、その期間に応じて専従者給与を調整する必要があります。専従者が働けない期間の給与を支給し続けると、実態に即していないと判断される可能性があるため注意が必要です。
Q3. 専従者が他の仕事もしている場合はどうなりますか?
専従者が他の仕事をしている場合、専従者給与の適用は難しくなります。専従者給与の適用には、専らその事業に従事していることが条件とされており、他の仕事を掛け持ちしている場合は「専ら」従事しているとは見なされません。したがって、他の仕事をしている場合には適用が難しいことを理解しておきましょう。
専従者給与に関する手続きの流れまとめ
専従者給与を適用するための手続きや準備を以下にまとめておきます。
- 青色申告の承認申請(青色専従者給与を適用する場合)
- 青色事業専従者給与に関する届出書の提出
- 支給額の設定:適正な給与額を設定
- 給与支払いの記録:給与明細、振込明細などを整備
- 勤務実態の証拠準備:勤務スケジュール、業務内容の記録
- 帳簿の保管:専従者給与の支払いや業務記録の帳簿を適切に保存
まとめ:専従者給与を効果的に活用するために
専従者給与は、個人事業主にとって節税効果を高める有力な手段です。しかし、適用条件をしっかりと理解し、正しく支給することが大切です。不適切な給与設定や勤務実態の不備は税務調査で指摘されるリスクがありますので、適切な手続きと証拠の整備を怠らないようにしましょう。家族を支援しながら事業の発展に寄与するためにも、専従者給与を効果的に活用していきましょう。
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